「ヘボコンはいまだにお客さん感覚です」ー 石川大樹さんインタビュー



技術力の低い人限定のロボットコンテスト、通称ヘボコン。
工作能力の低い人たちが集まり、でたらめではかないロボットたちを戦わせるイベントだ。

まずは是非上の映像を見て欲しいのだが、もう全てがたまらない幸せな7分間。すっかりその魅力にとりこまれた僕は、無茶を言って大学(SFC)の図書館で開催することにしてしまった。

「SFCヘボコン」開催を間近に控えたいま、イベントのきっかけになったインタビューをふりかえってみよう。お相手は、ヘボコンの創始者である石川大樹さん。ヘボコン、ひいてはものづくりなどなど、多岐に渡った内容をお伝えできれば幸いだ。


石川大樹(いしかわ だいじゅ) 
デイリーポータルZ編集/ライター・ヘボコンマスター。
「しょうゆを自動でかけすぎる機械」「メガネに指紋をつける機械」など、嫌がらせ分野を中心として雑な電子工作を制作。DIYギャグ作家。 → 個人サイト

デイリーポータルZ
ニフティが運営するオルタナ系読み物サイト。
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食べ物からダムまで、ジャンルはほぼ無限大。毎日見てます。



1. ヘボコン開催のきっかけ


ーヘボコンを開催するまでの経緯について教えて下さい。

僕は編集という立場でライターの人がいろんなことをやるのを見ているんですけど、工作に失敗する記事がすごい好きなんですよ。最初のヘボコンで「Amazing Quick Floor」を作った斎藤さんという人がいるんですけど、あの人がすげぇ工作下手で、僕はあの人の工作記事が毎回好きだったんです。そういう失敗作とかダメな工作とかを単純に見たい、いっぱい見たいっていうのがあって、それがヘボコンをやった一番の理由ですかね。

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「Amazing Quick Floor」の裏側

壊れそう!
斎藤さんの最新作、夢の靴下かわかしマシン

時系列でいうと、おととしくらいのMakerFaireをやったあとに、そういう失敗作ばっか集めたMakerFaireみたいなのをできないかって自分のブログに書いたんです。それは割と評判にはなったんですけど、出たいっていう人は2人くらいしか現れなかったので一旦諦めました。


こちらは石川さんがMakerFaireに出展した「しょうゆかけすぎ機」。


ーある程度反響はあったけど、イベントとしては結実しなかった。

そうですね。みんな見てみたいけど、別に自分では出たくないというモチベーション的な問題と、あと多分、みんな失敗作はいちいち保管してないですよね。だから出たくても手元にものがないっていう状態もあったと思います。

いまや500人以上がDIYギャグの虜に

その翌年くらいに、DIYギャグ研究っていうFacebookのグループを始めた時に、失敗作を集めたロボコンをやるって言ったら評判が良かったんです。失敗作版MakerFaireとは違い、イベントのために作るっていう風にしたので、それで参加者が集まったのかもしれないですね。

ーイベントにはどんな人たちが集まりましたか?

それは、なんかね、わかんないんですよね。例えば文化庁メディア芸術祭に出したヘボコンの映像(記事冒頭に掲載)は面白いから、あれを見た人が面白いっていうのはわかるんですけど。その前の何も形がない時点でみんなが面白そうって思ってくれた理由は、ちょっと僕はよくわかんなくて。でもあれかな、告知に使わせてもらったからあげクンロボが面白かったのかもしんないですね。


他の人の作品で人気をとって。そういう、先にものを見せといて期待を高めるっていうのは普段ライターとしてやってる習慣が効いてたのかもしれない。

ーあらぬ方向への期待ですね(笑)。

そうですよね。でも本当に、そういうダメな工作を集めるとか愛でるみたいなことをしてる人は、僕の知る限りいなかったので、そういうのが好きな人が出てくるっていうのもあんまり予想してなくて。ただ自分の趣味としてやったので、これだけ人が集まったっていうのは意外でしたね。

本当に最初は、7~8人で公民館でやるつもりだったのが、これだけでかくなったので。このあいだNHKのひとにこれだけ人が集まった理由聞かせてくれって言われた時も、ちょっとわかんないですって答えてきたんです(笑)。会場にはプレスもたくさん来たけど、なんでこんなに注目されたのかよくわかんない。まさか一年後こんなことになってるとは思わないですね。


2. 海外展開と自由な広がり


ー文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品を受賞してからは、海外でもすごい人気ですよね。

そうなんすよ、うん。僕はあの映像を作ってもらったのがすごい良かったなって思っています。一回目のヘボコンの面白かった部分が凝縮されているので、密度も濃いし、こんだけ楽しいイベントがあるならやろうっていうのはみんな思うだろうと。

Hebocon Romaから、ヤバさの権化

余談ですが、あの映像は友人でもあるデイリーの大北くんが作ってくれたんです。ヘボコンの海外ヒットは半分くらい彼の手腕ですよ。

ー海外でヘボコンを企画するのは、どのような人たちなんですか?

国によるんです。アメリカ人は大抵ハッカースペースやメイカースペースを持っている人で、そこのメンバーや近所の人たちで小規模にやるって人たちが多い。アジア人はそういう感じじゃなくて、大きい大会を志向している。台湾だと60組くらい集めてやっていたりとか、大規模な催し物としてやりたいっていう傾向があります。

いずれにせよ、やっぱりものづくりに興味がある人がメインではありますね。いざやるってなったときに、じゃあMakerFaireの中でやるみたいな話になったりとか、そういう展開が多いです。

MakerFaireTokyoでは2年連続でミニヘボコンが開催されている。
上は2015年の水ヘボコン(写真はこちらから)

広がり出した時はバタバタしてたんですけど面白くて。メ芸はなんとなくいけそうだなっていう予感があったので、発表までに間に合わせようと思って英語字幕版の動画を作っておいたんですよ。で、受賞の発表があって海外でバーって動画が広がり始める。何日かそれを眺めてたんですが、ふとコミュニティっぽいもの作ったほうがいいかなって思ってtwitterアカウントとFBページをつくってみたところ、先になぜかheboconっていうFBページがあり、これはなんかやばいなって思って。

オフィシャルのFacebookページを作って、負けないうちに手を打っとかないといけないと思ってYoutubeからそっちにリンクを貼りました。そういう地味な攻防戦があったりとかして、あのときはなんかこう、エキサイティングでしたね。一週間くらいですごいいろんなことがあった。

ー生みの親として、守りたいみたいな。

そうそう。今も広がって行くのは嬉しいんですけど、自分がなかったことになるのはそれはそれで嫌だなって。好きにやっていいけど、やること自体は教えて欲しいのと、終わったら写真とか送ってよっていう、それだけのお願いはしてます。

僕はヘボコンの趣旨を説明したドキュメントだけ配って、あとは好きにやってくださいっていう風にしてるんですよ。企業がやることだと普通ライセンス料とか請求すると思うんですけど、別にうちはそういう収益を求められている部署でもないので。どんどん自由にやってくださいっていうのは言っています。その結果今みたいに広がっているので。それは良かったな。


3. ヘボコンの魅力とは


ーこれだけ人を惹きつけているのはすごいですよね。何がみんなにとっての魅力になっているんですかね。

なんだろうなぁ、まず一回目のイベントがすごく成功したってのがあって、その面白さがきっちり再現された映像が一本ある。それによっていろんな人にあのイベントの面白さが伝わる。

SFCでは総額2000円くらいで会場と2台のマシンが作れた

あとは、同じものができそうだなっていう感覚が伝わるのかもしれないですね。とりあえず設備としては土俵さえあればいいし、ロボットを作るのも簡単だし、開催の敷居はものすごい低いじゃないですか。参加の敷居も低いから、出場者もそれなりに集まりそうだし、自分たちでもできそうっていう感じは、あの映像からすごい感じ取れるんじゃないですかね。

あとは、初心者がものづくりを始めるのにすごく良いきっかけになるって言ってくれる人もいる。僕自身も思っている、うまくないことを楽しむっていう価値観に共感してくれる人もいるし。

ー自分もできそうって思えることと、場の敷居が低いってのはいろんな人を巻き込むコツになっている。

多分あれって、淺野さん(インタビュアー,このブログ筆者)が大学でSFC大会やりますって言ったら多分できるじゃないですか。たとえばあれが本当のロボコンだったら、大学でやりますって言ってもそんなに人は集まらないだろうし大変。その辺の敷居の低さはあるでしょうね。

ーSFC大会、面白そうですね。

大学大会やりたいんですよ。タイミングあったら誘って下さい。学内大会とか、社内大会とかを促進していきたいという思いがあるんですよ。

ーそれはぜひ前向きに検討していきます!



そして開催へ...!
  SFCヘボコンは、12/8の16:30よりスタート!


ー最後に、ヘボコンへの気持ちを聞かせてください。

ヘボコンは未だに僕は、なんていうんだろう、お客さん感覚って言ったら変だけど。見たいっていうのが大きくて。ほかの人の失敗作とかダメなものを見たいっていうのが大きくて、そのモチベーションでずっとやっています。「自分のイベントだからみんな来い」っていうよりは、見たい。

ー石川さんはあくまでイベントの形を作るだけ。だれもがみんな、自分の作ったものを置くし、みんなそれを見るという面があるのかもしれませんね。

そうですね。ヘボコンは場所です。





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